岩槻市大字南平野字中通丸田

発見日:2022年6月4日

発見場所:さいたま市岩槻区南平野一丁目付近

これまで各地の通称町名を紹介してきたが、いよいよストックが尽きてしまった。実は深谷市本庄市の通称町名を少し見つけてはいたのだが、そちらはcitywalk2020さんがたくさん紹介してくださったので、私はもっと地味なやつを紹介することにする。 

今回紹介するのは、元荒川沿いに設置されていた占用許可の標識に書かれていた旧地名である。公的な標識なので、地番も隠さずに載せている。字中通丸田と字深町が併記されているが、字深町は紹介済みなので、表題は字中通丸田とした。

小字は江戸時代以前から土地の小区画を指す地名として使われていたが、現代につながる行政区画としての小字は明治の地租改正のときに定められたものである。この制定直後の小字のリストが、北足立郡新座郡南埼玉郡については字届書/字名称調として記録されている。旧岩槻市の範囲については、「岩槻市史 近・現代資料編1」でも見ることができる。

南埼玉郡の字名称調に記載されている南平野村の小字は、丸田耕地、中道リ丸田耕地、深町耕地などのつい最近まで残っていたもののほかに、干場、杉下、榎際などの聞いたことのない名前が載っている。このようなことは他の町村についてもしばしば見られるのだが、どうやら小字だけでなく小名が混ざっているようだ。

資料の原本のほうを見ると、小字は上段、小名は中・下段と一応書き分けられているように見える。また、「~耕地」がついているのが小字で、そうでないものが小名と見分けることもできる。他の町村の例では、小字と小名が明示的に分けられているものもあれば、小名しか載っていないものもあったりする。リストを残してくれているだけ他の郡よりましなのだが、こうなるとリストの正確性に疑問が生じる。

ちなみに小字と小名は何が違うのかというと、基本的に小字は土地に付けられた名前で、小名は集落名と考えて良いと思う。もともと小字は耕地にのみ付されていたのが、明治の地租改正で山間部などの耕地以外にも付されるようになった。明治期の文献で小字に「~耕地」とついたものが多いのはその名残りといえる。しかし、この「~耕地」は時代が経つにつれて徐々に外されるようになり、現代では「前耕地」「上耕地」のような例を除くとあまり見られなくなった。